セミナーレポート1「俯瞰してみる介護業界と今後の行方」

私が聞いて参考になったセミナーの内容をまとめました。興味があればご覧ください。

タイトル:「俯瞰してみる介護業界と今後の行方」

■介護事業は“儲かるのか”を有識者に聞いてみた

令和2年2月12日から14日まで東京ビッグサイトで開催された東京ケアウィーク2020で多くの介護事業者および関係者にとって興味深い専門セミナー中が多数開催されました。その中から特に気になったセミナーの内容を自分の感想も交えてレポートします。

講師の先生は国内に限らず、海外でもコンサルティングの実績もあり、経験が豊富な先生からお話頂きました。先生は現在、より深く介護の事業を理解なされる為に大学院に通い勉強をなされているそうです。

その先生が通われている大学院の先生に「介護保険で儲けることはできますか」と質問をしたそうです。大学院の先生といえば、間違いなくその分野における有識者ですので、どのような回答か楽しみです。

まず社会保障が専門の先生は「そもそも“社会保障“は資本主義の課題を解決するための“サブシステム”である。国がコントロールしている以上、儲からない」との回答。確かに貧困や格差は資本主義が生み出した一つの課題であり、社会的弱者への支援は資本主義の中では取り残されがち。その課題や取り残しを解決するシステムが社会保障制度であり、社会保障制度は国が方針や内容を決めていくもので、原資の多くは税金であることを考えると、それに携わる事業者がその収益により過大に成長していくことがないようにコントロールしていくことは理解できます。

次に医療経済が専門の先生は「介護ではないが視点を変えればビジネスチャンスはあるNフィールドなどは好事例」との回答。Nフィールドとは精神障がい者を専門にした訪問看護事業所と賃貸事業を手掛けていて全国に約200の拠点があるそうです。精神障がい者への支援というと事業者は二の足を踏んでしまう場合が多く、十分なサービスが提供できないのが実態でした。その不足しているサービスに着目・特化していくことでビジネスとして成長ができたと分析しています。また介護人材の不足を背景に外国人の介護人材を紹介する事業も成長しているとのことでした。

そのような専門家の見解も頭にいれながら、セミナーは高齢化社会の現状について説明を頂きました。2018年に死亡した約136万人の要因疾病は第一位「ガン」、第二位「脳卒中」、第三位は「老衰」であった。高齢者特有の疾病が第三位になるということは日本の高齢化社会を象徴するひとつのデータとなっている。そして日本は高齢化率が世界一であること、女性の高齢者が多いこと、単身世帯が多いこと、100歳を超える高齢者が増加し2050年には現在の7万人から50万人に増加するという試算もあります。そして90歳まで生きる男性は26%(4人に1人)、女性は50%(2人に1人)となる見込みです。

■変化する生活・ニーズのステージ

そんな高齢者がたどる生活ステージは3段階に分かれます。ステージⅠはすべてが自立して生活できる自立期、ステージⅡは日常生活において何らかの手助けが必要となる介助期、ステージⅢは日常生活において介護が必要となる介護期です。そしてニーズも変化していきます。ステージⅠにおいては新しいライフデザインのニーズ、ステージⅡにおいては自立生活支援、ステージⅢにおいては在宅でのケアを望むニーズです。また、ニーズは時代によっても大きく変化してきます。いまから少し前はお年寄りの運動の代表格といえば「ゲートボール」「グランドゴルフ」でした。いまは双方とも競技者人口が減ってきています。またシルバー人材センターの登録者も減少しています。現代のお年寄りは「カーブス」に代表されるスポーツジムで運動し、認知症予防に“脳活”を行っています。介助期においてはユニバーサルデザインフーズ(食べやすさに配慮した食品)や対話支援機器などがあります。

一方で高齢者が自立した生活を長く継続できるようになった影響か不慮の事故で亡くなる方が年間3万人を超えるようになってきたという事実があります。また転倒、転落、溺死が増えており、この事故対策や事故予防に対するサービスは不足しているように感じます。

また介護周りの周辺ビジネスの説明もありました。介護保険外サービスとして豊島区がモデル事業として取り組んだ「選択的介護」はニーズとのミスマッチが発生していること。家事代行サービスは市場規模を拡大していく見込みであるが、高齢者が利用主体となるかは疑問を感じる。共稼ぎ世帯が利用の主体となる可能性は大いにあるので、新しく事業を開始する場合にはターゲットをよく考える必要があります。また介護に関する論文検索で最近多いキーワード的な文言は「ロボット」、「外国人」、「M&A・金融」、「終活・葬儀」とのことでした。このあたりを組み合わせると新しいビジネスが見えてきそうです。

■もう一人の有識者に聞いてみた

 介護事業の倒産に関する特徴に関しても解説がありました。2015年から毎年100件をこえる介護事業者が倒産しており、負債総額も年々増している。倒産する事業者の特徴として、小規模事業所、開設1年未満が多い。倒産の理由として「販売不振」、「人手不足」、「経営計画の失敗」が挙げられています。特に経営計画の失敗は安易(国から9割の報酬がもらえる、高齢者は増える一方など)な考えで正確、緻密な調査なしで参入した結果でもあるといえます。

そこで先生は大学院の福祉経済の有識者に「介護保険ビジネスで儲けることはできますか」と質問したところ、「介護事業者はエリアマーケティングが弱い所が多い。収益性を高めるためにはマーケティングが必要」と回答下さったとのことでした。マーケティング項目の一例として世帯人数、要介護者のいる世帯数、人口密度、要介護認定者数、競合する介護事業者数などがあります。

■介護事業者は意識を変えるべき

 介護保険制度が始まって20年が経過し、この20年で利用する方の意識も大きく変わり、「開設したら人が集まる」という時代は終わりました。ましてやこれから団塊の世代の人達がサービスを利用するようになると、自分の親を介護する際に情報をインターネットから収集してきたこともあり、自分が受けるサービス(介護ニーズ)に対する要求はかなり高くなると想定されます。その変化にあわせて介護事業者も変化しながらサービス提供する必要があると思います。

昨今先生が施設を訪問していて感じることは「高級老人ホーム」から「特養」に転居してくる方が増えているそうです。ご夫婦で入っていましたが、単身となり費用がもったいないとの理由で転居してくるケースだそうです。高級老人ホームであっても常にサービスの質の維持向上をはかっていかないとお客様が離れるようになってきます。同様に他のサービスにおいても同じことが言えます。そして介護保険事業以外にも視野をいれて全体を眺めることが必要であるとのことでした。

■最期に(私の感想)

 有識者でも専門領域により捉え方が異なることは大変勉強になりました。社会保障での視点は「介護(福祉)は弱者救済が原点であるから非営利もしくは低い利益」、医療経済の視点は「自由診療も浸透しているので儲けるなら“ニッチ”な部分を探すことが大事」、福祉経済の視点は「需要はあるのだから、何を供給するかをしっかりと考えることが大事」ということだと思います。社会保障の視点に固執していると、時代の流れや変化に対応が出来ないように感じますが、弱者救済という視点は大事にすべきと考えます。

私も20数年前に一般企業から介護業界に転職し、介護現場に入った時に利用者さんや家族がなぜこんなに私達に気を遣うのか、お金を払っているのは皆さんなのにと思っていました。当時は介護保険もなく、まだまだ介護に関しては家族が行うものという意識がありました。それから20年が経過し、だいぶご本人、家族も介護に関する捉え方も異なってきました。そしてこれからの時代はさらにサービスとしての質や内容を求められ、結果も求められる時代になるのではないでしょうか。だからこそ介護事業者はサービス品質の向上と異業種のサービス、生産性の向上も含めてアンテナをはっておく必要があるのだと感じました。

やはり一流の先生の話をリアルタイムで聞けるというのは大変参考になります。是非皆さんも次回は会場にお越しになってリアルタイムで最新情報を得て下さい。


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